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頂上血戦!ジェノサイダー大集合!!【リレー小説本文用スレッド】
- 1 :1_RidDLE ◆gScLpqZx:2002/2/23(土) 23:33:40
- 各サイト様の強力かつ濃ゆいジェノサイダーキャラを集めて、頂上血戦を開催しましょう。
こちらは、リレー小説の本文を投稿する為のスレッドです。
小説本文以外の、感想や連絡事項あるいは作者様の自己批判等は、以下の【連絡用スレッド】にお願いします。
http://freebbs.fargaia.com/res.cgi?id=apc&key=000003
【執筆の際の心得・当小説における基本設定】>>2-5
【過去ログ@JBBS】http://rukora.hoops.ne.jp/jbbs_log/1001308901.html
- 200 :【90】:2004/10/27 19:18
- 竜太は右腕を地面に当てると狂気的な表情を浮かべて発火を始めた。
麗音はその行動の真意を全く読めなかった。急に笑い出したかと思ったら右手を地面に置いただけなのだ。闇雲に発火してくれた方が攻撃しやすいのだが、この不気味な行動に少し戸惑いを感じる。そして違和感に気づく。
(ちょっと…、暑くない?)
気のせいだろうか、急にこの辺りの気温が上がったような、そんな風に感じる。心なしか、冷気が暖気に変わってしまったような。それに気づいた時、竜太の顔を見る。狂気に歪んだ気味の悪い顔。
「死……ネ……」
竜太がその二言を口にし、周辺の地面が爆ぜる。正確には周囲の砂利を爆風で吹き飛ばしたのだが、その勢いに麗音は驚く。小石や砂のような土が波のようにこちらに向かってくるのだから、それも無理はない。麗音は咄嗟に顔を覆い隠す。
だがその砂利の波に当たった瞬間、麗音は絶叫を上げる。
「あ、熱ぃぃぃぃ!」
竜太が発火していたのは地面。砂利に熱を持たせた地熱風の波。それが竜太の考えた作戦だった。麗音の声を聞いた場所に右手をしっかりとかざす。
「そこかよ? 消し炭になりなぁ!」
肌の露出している部分に軽い火傷を負った麗音に冷静な判断などできるはずもない。激痛が襲っているのだから苦しむ他ない。しかしその苦しみも長くは続かなかった。麗音の居る場所に大きな火柱が上がり、麗音の身体を包み込んだのだから。
その瞬間、麗音の神経は痛覚を感じることを止めた。
【残り8人】
- 201 :【91】:2004/10/27 22:02
- それから数分後、和田竜太は川の水で目に侵入した異物を取り除いていた。眼を開けると微かにボヤける程度で失明はしていない。それに安堵感を感じると共に、自分の周辺に目をやる。すると近くに赤黒い物体を発見する。それにゆっくりと近づく竜太。それはさきほどの戦いで燃やしてやった白鷺麗音だったのだが、もう男か女か、いや人間であるかなどの区別もつき難い。
しかし僅かに痙攣している。どうやらまだ生きているようだ。しぶといにも程があるが、竜太は愉快でたまらなかった。自分をここまで追い詰めた人間が醜くもがき、そして死んでいく。それがとてもとても滑稽に見えた。
「相馬のクソ女か、連れの女か… どっちかだろうがいい気味だぜ、ヒ火ヒヒ」
そうだ。自分が手を出した人間がどれほど偉大だったか、自分がどれほど無力でちっぽけな人間だったか。後悔して死んでいけばいい。こいつにはそれが相応しい。
竜太は愉悦に浸っているのを現実に戻したのは、さきほど焼いた傷だった。
「痛ぇな…、自分の身体を焼くのはあんまり気分のいいモンじゃねぇが…仕方ねぇ」
『野炎』の影響で炎への耐性ができているとはいえ、出血を止めるために炎で傷口を焼くという行為はもはや狂気の沙汰としか言いようがない。だが竜太はそれを実行した。すでに彼の頭の中は何かに犯されていたのかもしれない。恐怖か、あるいは狂気か。
焼かれて虫の息の人間を目の前にして彼がやった行為は外道としか言いようがないことだった。その身体を思いっきり踏みつけたのだ。
「ヒヒヒ火ヒヒヒヒヒヒ火! 見たかよ、クソアマ! 俺を殺そうなんて一万年早いんだよ! 顔を洗って出直して来な! あ、もう顔は爛れて洗えねーか、ヒヒヒヒ火!」
狂った笑いが当たり一面に木霊する。それを聞くのはただ一人。地にひれ伏し、ただ死を待つ麗音だけ。それともう一人。
「し、白鷺……、さん?」
擦れた声で姿を現した少女。天性の美貌がこの時だけは驚愕の色を示している。片手には回収してきた竜太の武器・マイクロウージー。それを握り締めた相馬光子を竜太は目に収めた。
- 202 :【91】:2004/10/27 22:03
- 「よぉ、淫売。お前の相方はこの通り黒こげだぜぇ。まぁ次はお前の番だけどよ、ヒヒヒ火ヒヒヒヒヒ!」
こう言われた時、光子の中で何かが弾けた。別に他人のことなんてどうでもよかった。ただ自分の所有物を奪われたことに唯ならない怒りを感じた。彼女を殺していいのは、私だけ。それは歪んでいたが「友情」と呼ばれるモノだったのかもしれない。それを奪った竜太に対する感情の大津波が到来する。
いわゆる、「キレた」って奴だ。
「あああああああああ!」
とても光子の声とは思えない野獣じみた叫び。それと共にマイクロウージーから銃弾が次々と発射される。訓練を受けていない光子でもこれだけの弾雨であれば竜太に被弾することができるだろう。
しかし、竜太にとってはそれは退屈な作業だった。何度サブマシンガンに襲われたことか。そして何度それを爆風で叩き落してきたことか。竜太は淡々とその作業をやり遂げる。光子はマガジンの弾が無くなるまで引き金を振り絞ったが、結局竜太に到達することはなく目の前で叩き落された。
敵わない。その現実が光子に非情なる刃として突き刺さる。そして「死」という未来がこれから訪れる。竜太はこちらに向かって右手を振りかざす。おそらく炎を発生させる気だろう。
「諦めろ、お前は死ぬんだよ」
だが竜太は光子の驚きの表情を見る。これには少しばかり解せなかった。
何だ? 自分の死が信じられないってか。なら教えてやるぜ、お前は死ぬんだよ!
- 203 :【91】:2004/10/27 22:04
- 光子が驚いていたのは認められない死ではない。竜太の足元にいる黒こげの麗音である。最後の力を振り絞って右手を持ち上げている。そしてその手には、一本のナイフ。
微かな抵抗。だが全力で生きようとする明確な意志。麗音の最後の指示を受け取った光子はマイクロウージーを捨てる。
その瞬間、麗音の右手が振り落とされる。手に握ったナイフは和田竜太の右足の甲に見事突き刺さった。
「ぐっぎゃあああああああああ!」
予期せぬ痛みは竜太はショック死しそうな激痛に襲われる。それこそ、赤ん坊のように叫びまくった。まさか足元から攻撃を受けようとは夢にも思わなかったのだから。
この竜太の怯みに最後のチャンスを待っていた光子は一気に距離を詰める。その右手には慣れ親しんだ鎌が握られている。痛みで悶絶していた竜太はそれに若干反応が遅れる。光子の接近に気づいた時には炎を発生させるには危険な距離まで近づかれていた。
光子は全力疾走しながら鎌を振り上げ渾身の一撃を竜太に放つ。竜太はそれに全身体能力を総動員して何とか身をよじる。結果、光子の斬撃は竜太の左胸を傷つけた。ちょうど肉を削ぐくらいの深さで、致命傷にはなりえなかった。
全力で行っていた光子の体勢が崩れる。そしてフワリと長く美しい髪が靡く。その髪を竜太は全力で掴む。そして思いっきり引っ張りあげる。
「痛ぁぁああいいい!」
髪を引っ張られた痛みで膝を突く光子。勢いそのままに竜太は光子の背中に足を押し付け、髪を引っ張る体勢に入った。そして怒りの表情をそのままに光子に罵声を浴びせる。
「な、舐めた真似しやがってぇぇ! そのご自慢の髪からお前は焼殺だ!」
光子は激痛の中で考えた。竜太如きに自分の存在が奪われるのか。自分はもう奪われる側が御免だと心に誓ったのではないのか。
(そうだ、私は…)
そうやって竜太の手から炎が発生し始める。そして光子は手に持っている鎌を首の後ろに構える。
(奪う側に回るのよ!)
そして火が回る前に根本から髪を切り捨てる。竜太の持っていた髪が切り離され、先が鮮やかに散りばめられる。勢いよく引っ張っていた竜太は突然解放された髪にバランスを崩し、上体が後ろに下がる。光子の切られた髪は線香花火のように燃え、灰になっていく。その先にあるのは、一人の鎌を持った少女。その修羅の如き目に竜太はほんの一瞬目を反らしたくなった。
- 204 :【91】:2004/10/27 22:07
- 竜太は手元から炎を出そうとする。この女は早く焼き殺さなくては、そう直感が告げていた。しかし、竜太の手の内側に入ってきた光子に火炎は当たることはなかった。身体の勢いそのままに両手で持った鎌を竜太にめがけて突進する光子。そのまま鎌の刃は竜太の喉下に突き刺さる。
前と後ろに刃が生える。竜太の首に高熱が襲い掛かる。まるで炎で焼かれているようだ。痛みの熱さの協奏曲だ。
「ご……、かぁ……、けぇ……!」
喉から血が破裂した水道管のように溢れだし、目の前にいる光子にかかる。それを振り払って竜太の身体から離れる。一方の竜太は声になっていない呻きを言いながら一歩一歩後ろへと下がっていく。
血を止めようとしているのか、喉へ動く右手を当てるが当然血に汚れるだけである。そして終焉が訪れる。眼から生気が失われると、そのまま後ろへと身体が倒れこむ。後ろは川だったので倒れた瞬間水飛沫が当たり一面飛び散る。そして、川に浸かった竜太の喉下の赤い液体は清流を赤々しく穢していく。
光子は竜太の傍に行って生死を確認するまでもないと思った。喉に鎌を突き立てられて生きていられたらそれこそバケモノだ。それより麗音の方が先決だ。光子は重い身体を起こして麗音を見るが、ふと足が止まる。
すでに痙攣していない。ピクリとも動いていない。もう、死んでいる。
そのことにショックは感じなかった。あの状態で生きていられるはずもない。そもそも最後の二人になったら自分の手で殺すはずだったのだから。彼女は自分の意志で生きて、自分の意志で死んでいった。それでいいと思った。
「……さようなら、白鷺さん」
価値感は少し違ったけど、本当に似たもの同士だった人。その人に別れを告げる光子。
そして一陣の強風が光子に吹き付ける。短くなった髪を撫でてふと自分が来た方向に目をやると、自分の目が信じられない光景に直面する。
それは考えられる限り、最悪の状況。疲労困憊・全身全霊の力を出し尽くした後に死神に直面するような光景。そして、光子にとっての死神はそこに居た。光子はただ絶望してその者の名前を呟いた。
「桐山……、和雄」
【残り6人】
- 205 :【92】:2004/11/07 15:34
- 「女子9番相馬光子。首輪の反応が消えました……」
プログラム運営本部。一つの生命が消えたことを伝える報告。それはプログラムが順調に進んでいる証でもある。しかし、担当官たちの顔色は思わしくない。それどころか怒りを露にしている人物さえいるほどだ。
「しかし、とても普通に死んだとは思えませんね…」
静かに淡々と呟いたのは、相馬光子(女子9番)の死亡報告をした小鳥遊桐子(担当官)。
「当たり前だろうが! 第一、周りに奴以外の反応はなかった。それで死ぬなんて自殺以外ねぇ!」
バンッと机を思いっきり叩いて怒声を撒き散らしているのは、顔のシワが寄り怒りを露にしている矢神至(担当官)。
「落ち着けよ、矢神。それにこのプログラムは精鋭ばかりだ。自殺なんてヤワな死に方、万が一にもありゃしねーよ」
矢神の隣で怒りをたしなめているのは、片陀泰狼(担当官)。その声とは裏腹に顔は非情に冷めていて、刃のように尖って見える。
「それに、相馬光子が最後に言ったあの言葉…」
小鳥遊と同じく落ち着いている折本等御(担当官)。仕事をしながら皆の会話に参加していると言った状態だ。
「桐山和雄…ですかー。やっぱり予想通りになっちゃいましたねー」
唯一この担当官陣で桐山の生存に何の反応も示さず、顔色どころか声色を変えなかった坂持金発(担当官)。このことに反応したのは、この事態に感情を露にしている矢神だった。
「坂持のオッサン、アンタこうなることがわかってたな? どうしてわかった?」
そして勢いよく立ち上がり、坂持の方に詰め寄ろうとする矢神。それを腕を掴んで静止させたのは隣にいた片陀だった。
「よせよ、矢神。それにまだ桐山だと確定したわけじゃないし…」
「いいじゃないですか、片陀先生。矢神先生の言い分もごもっともだと思いますよー」
そう言って坂持が矢神の方に自ら歩み寄って話しができる距離まで近寄ってきた。それをその場にいた全員が固唾を呑んで見守る。
「どうして桐山が生きているとわかった? 第一そんなことになれば脱走の可能性もあるし、俺たちの責任問題にもなる」
「私はあくまで生きていると断定したわけではありませんよ。その可能性があったというだけのことですよ。だから田原たちに死体の確認に行かせたでしょー」
「じゃあ、なぜそう思った?」
そう矢神が聞き返すと坂持は困ったように唸った。答えにくい、という解答がその表情からありありと伺える。
- 206 :【92】:2004/11/07 15:38
- 「そうですねー…… 私は桐山のクラス担当だったからわかるんですが、あまりに呆気なく死にすぎた、という点が引っかかりましてね」
「……? それならよくあることだろ? 何が起こるかわからないのがプログラムだ」
たまらず問いかけたのは隣に座って視線を注いでいた片陀だった。矢神も同様のことを思ったらしい。だが坂持は表情を変えることなく飄々とした態度で話を続ける。
「そうなんですがね、桐山和雄っていう人物を評すると、何回かプログラムを担当してきましたが、古今東西見てもあれほどの『天才』は見たことがありません。超人級と言ってもいいかもしれません」
「身体能力が高い奴なんて腐るほどいるぜ。それだけじゃ勝てないってこともアンタも重々承知だろ」
「そうですねー。ですが桐山の場合、精神力の方が怪物なんですよ」
そう言って人差し指を天井に差して坂持は淡々と論理を展開する。
「何をやるにしても何の躊躇いもなくやる。これをやるのが一番難しいのが凡人です。しかも様々の状況が加わると余計に躊躇いは生まれる。でも桐山にそれがないんです。昔の事故の影響らしいですけど、思想・理念・感情に縛られることがない。だからどんな状況だろうと、躊躇いがないんですよー」
そこまで言って矢神はまだ坂持が言おうとしていることがわからない。それは他の担当官たちも同様だ。
「だから何だ? それが桐山を疑うことなのか?」
「そうなんです。だから私は桐山の『同士討ち』に疑問を持ちました。さきほども言ったように桐山には躊躇いがない。だから殺し合いの結果は単純なんですよ。相手の死か、自分の死か。即死のポイントが躊躇なく狙える精神と技術を持っているから、同士討ちがない、というのが私の考えだったんです」
ようやく坂持の言いたいことが理解できた矢神は、多少腑に落ちない顔をしながらも神妙な態度で聞き返す。
「……だから疑った、というわけか」
「そうです。桐山の勝ちか、神宮寺の勝ちだったら、私も疑わなかったでしょうねー。でも桐山らしからない同士討ちだからこそ、私は疑ってかかったわけですよ」
「だが、所詮は可能性だろ?」
「だから可能性がある、ということに止めたわけですよ。確定だったら田原たちを会場に派遣しませんって」
坂持と矢神とのやり取りがそこで途切れると、作業をしていた折本が坂持に向かって話しかけてくる。
- 207 :【92】:2004/11/07 15:40
- 「坂持先生。プログラム会場外の主要路に待機している警備軍と連絡が取れますが、どうしますか?」
もし桐山らが生存しているのなら、もちろん目的はプログラムからの脱出。それを防ぐには会場を囲っている有刺鉄線ではもはや不可能である。逃走経路の遮断するために専守防衛軍が待機していることは生徒達は知らない。その軍に始末を任せれば万が一にも会場からは逃れられない。
「そんなことをする必要はありませんよ。連絡もしなくていいです」
しかし坂持はその返事に大手を振って拒否する。これには折本はおろか、隣にいた小鳥遊も怪訝そうな顔をする。
「坂持先生。これは異常事態です。せめて警戒を促す連絡をする必要はあるのでは…」
小鳥遊はそう言うと、坂持は表情も変えずに反論する。
「それでは私達の責任問題が浮上しますよ? 逆に桐山にそれを察知されてそこから逃げる隙を作る可能性もありますし… それに桐山はただ主要路から脱出するなんて真似しませんって」
大手を振って論理を展開する坂持に他の担当官たちは黙って聞くしかない形となった。この時点での力関係は完全に坂持が他の担当官を上回った。そう感じるシチュエーションでもあった。
「じゃあ桐山は何する気なんだよ」
ようやく怒りも収まってきた矢神は納得していない顔でぶっきら棒に坂持に問いかける。その坂持は人差し指で地面をチョイチョイと指差す。
「ここです。本部を襲撃してきますよ」
その言葉に全員が絶句する。ここはプログラム本営、言わば至上のゲーム観覧席だ。そこにゲームキャラが実在化して攻め込んでくる、坂持が言ったことはそれくらい現実味のない話だった。
「こ、ここに攻めてくるって言うのか!」
矢神はまだ信じられない顔で坂持に聞き返す。坂持はそれを見てニヤリと嫌な笑いをする。
「ここの機能を潰せば、首輪を無効できると考えているんでしょ。今のガダルカナル3号の性能は身体機能が停止しない限り稼動するように改良されてますからいいですが、少なくとも禁止エリアは無効になりますしね。そうすればプログラム参加者も脱出に力を貸す者も現れるでしょうし、本部が襲撃されたと分かればゴタゴタも起きて逃げる隙もできる、とこんな感じでしょうね…」
『へぇ、その話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか? 坂持先生』
- 208 :【92】:2004/11/07 15:44
- 坂持の声を遮る異質の音声。その場にいた全員の目がその発声源に集まる。それはこの場にいる担当官の声でもない。それは担当官・兵士に持たせてある連絡用無線から聞こえてくる音であった。響き渡った音に多少顔が引き締まった坂持はすぐに無線を取って返事をする。
「誰です? 山羊歯先生ですか? それとも…」
この場にいないのは担当官の山羊歯志ん児(担当官)とその山羊歯を探しにいった江ノ島平八(担当官)。そして桐山・神宮寺の死体確認のためにプログラム会場に派遣した田原らしかいない。
『さ、坂持さん…』
無線から聞こえてきたのはさきほどとは違う声だった。しかしそれは坂持にとって聞き覚えのある声だった。
「近藤か? お前何やっているんだー」
『た、助けてください! 俺の後ろにいるのは、旗山です! 銃を突きつけられて……』
『はーい、そこまで。状況は分かって頂けました?』
担当官の目が会場の一つの首輪反応を示す点に集中する。会場にいる旗山快(男子13番)の反応が怪しく点滅している。
「旗山ァ… どういうつもりだ? 下手な真似をどうなるか、分からないわけじゃあるまい?」
坂持は無線を握り締めながら、訝しそうな顔をして声を変えずに応対する。
『じゃあ、坂持先生に聞きますが、プログラム会場に兵士を投入するなんてどういうつもりですか? てっきり生徒と間違えて一人殺しちゃったじゃないですか』
快の言っていることは真実以外何物でもなかった。現に今近藤(プログラム兵士)の無線を取り上げ、片方の手では両手を挙げた近藤の後頭部に銃を突きつけている。そして近藤の右手には頭を一発で撃ち抜かれた野村(プログラム兵士)の死体が無惨にも転がっている。
「兵士を人質に取って交渉のつもりかー? そんなことをしても無駄ということはわかっているよなー?」
すると快は口先を持ち上げて、爽やかに笑う。
『アハハハ、そんなことしませんって。第一この首輪がある限り、交渉なんて成立しませんって』
「じゃあ、何がしたいんだ?」
そう言うと、無線の声の主は抑揚が抑えられないのがわかるほどの声で答えてきた。
『坂持先生にお願いがあるんです』
その答えを聞いた坂持は1秒の間、1分にも渡るほどの考えを張り巡らしていた。その議題はもちろん、旗山快の考えていること。そして次の秒で、すぐに答えを出した。
「何だ? 言ってみろ」
あえて快の言い分を聞いてやることにした。坂持の返答に快は満足そうな笑みを浮かべて、一つの願いを口にした。
『桐山をぼくに狩らせてくれませんか?』
【残り5人】
- 209 :【93】:2004/11/09 17:00
- 「旗山ァ、お前自分の言っていることがわかっているのかー?」
坂持は無線を握り締め、引き締まった顔が多少緩む。緊張が一気に解けるほど、快の「世迷言」は現実味がないことだ。そもそも快はプログラム参加者で残り5人となったプログラムで、桐山に次ぐ優勝候補筆頭である。それを反逆者である桐山を殺すためにプログラムから外すなどという特例は認められるはずもないし、させる気もない。それはその場にいるすべての担当官の考えと一致していた。
『ええ、わかっています。無理を承知でお願いしているんですよ』
快の声には一切の動揺も冗談も含まれてない。すべて自分の意志であり、真実であることが無線越しに坂持には理解できた。坂持は優等生に無理難題なお願いをされた気分だった。そんな人物の願いを無下に断るのも気分がいいものでない。
「それが無理だということはお前もわかるだろー。お前はプログラムでも優勝候補なんだぞー。それを途中放棄させて反逆者討伐なんてさせられると思うのか?」
『ぼくはプログラムを降りる気はありませんよ。ただプログラムの延長として桐山という男を殺したいわけです』
坂持は快の答えを聞きながら困った顔をする。一方の快は目の前の近藤の後頭部に片手に持っているベレッタM92FSの銃口を押し付ける。近藤は「ヒィッ!」と恐怖に慄く声を上げるが、快は意にも介さずに坂持に話しかける。
『ご心配には及びませんよ。先生には何の迷惑もかけません。むしろ生徒間の殺し合いこそ、このプログラムの目的でしょう。先生方の手で殺すより、ぼくが殺す方が論理的に正しいと思いますが?』
すでにその話事態が論理を逸脱しているということには触れず、快は話を纏め始める。だが坂持はたかが一生徒に丸め込まれるような頭の悪い大人ではない。快の言いたいことを理解しながらも、それでも腑に落ちないことがあった。
「旗山ァ、どうしてお前そんなに桐山と戦いたいんだー? 始末は先生達に任せて優勝すれば早い話だろーが」
正直言って快の執着は異常の域に達している。すでにプログラムを脱落したも同然の桐山など無視して残りの生徒を殺せばいいものの、快はそれを潔しとしない。それが理解不能だった。
そして坂持の中では快が桐山と結託する可能性も捨ててはいなかった。快のプロフィールを見ると、専守防衛軍所属の軍人だが、軍属になる前に軍の兵士を殺すという前歴がある。まあその技術があったからこそ、軍に才能を見出されて特殊工作員になれたというべきなのだが。坂持の考えることは快に専守防衛軍、さらに見れば大東亜共和国政府に怨みがないとは否定しきれないことである。
- 210 :【93】:2004/11/09 17:02
- 『先生、ぼくは今何も縛られることなく殺し合いをしています』
坂持の考えを遮断するように、無線越しに快が淡々と語りだす。
『ようやくぼくはぼくを証明できそうなんですよ。専守防衛軍伍長・旗山快ではなく、人間・旗山快として。その人間はエキシビジョン・マッチで完全優勝した最強無比の中学生クローンとして、反逆者も狩り殺した存在として世界に証明できるんですよ。それがどれだけ重要なことか、先生にわかりますか?』
快は黙々と、そして自分の沸きあがる感情を隠すこともなく、自分の今のありのままを語る。正直に、お世辞もなく、誰に媚びることもなく、自分らしく語り続ける。
『軍の命令で任務をこなす時はひどく気分が悪いものでした。でも今はしない。なぜか、ようやくその疑問が解けました。ぼくは自分の意志でこれに乗っているからです。これに優勝すること、桐山も含めて殺して唯一人この地上に降り立ちたいからです』
そこまで聞いて坂持は快を理解した。この旗山快という人間は、反逆者ではない。生前、他人のために尽くしてきたために、今自分のために動くことに至上の喜びを感じている。快は純粋なのだ。そしてそれはプログラムにおいてすべてを殺すことが快にとっての優勝なのだろう。自らを証明するために、邪魔な存在は容赦なく殺す殺戮兵器。コイツは本物のジェノサイダーだ。
「旗山ァ、結局の所如何して欲しいんだ? 先生の許可だけが欲しいわけでもないだろー」
坂持のこの答えにその場にいた全員の担当官の視線が坂持に突き刺さる。だがそれにもまったく構わないという態度を取った坂持からはその言動が本気ということを伺わせる。
『別に難しいことはないですよ。さっきの話を聞くとこの首輪…、確かガダルカナル3号は禁止エリアを無効にしても首輪の機能は停止しないんですよね?』
「そうだぞー。もちろん手動で爆発させることも可能だー」
『なら話は簡単。ぼくの首輪の禁止エリアを無効にして欲しいんです。桐山が禁止エリアに居たり、会場の外に出たら、ぼく手が出せなくなるでしょ?』
快は坂持が自分の話に興味を持ってくれたことに手ごたえを感じ、一気に核心へと持っていく。ここで躊躇すれば交渉の余地はなくなる。
「お前だけそんな処置をとるのはなぁ… だいたい禁止エリア内ならプログラム参加者にとってお前は無敵ってことになるぞ?」
『ならぼくが禁止エリア内で他の参加者を攻撃したり、戦闘中に禁止エリアに逃げ込んだ場合は首輪を手動で爆発して構いませんよ。それならそこまで有利にならないでしょ?』
- 211 :【93】:2004/11/09 17:03
- そして快がその提案をした後、一瞬の沈黙が訪れる。その場にいる担当官の目が坂持に集中しているのは言うまでもない。そして坂持は何かを考えているような顔で今までで一番真剣な表情をしている。
そして坂持がその沈黙を自ら破る発言を唱える。
「よし、わかった。お前の言うことを許可してやろう」
坂持の爆弾発言。それはプログラムを無茶苦茶にするモノ以外何物でもない。すかさず矢神と片陀が立ち上がるが、坂持は片手を差し出して静止させる。一方の折本は我関せずの姿勢を崩さず、小鳥遊は坂持をじっと見つめている。
『本当ですか! ありがとうございます、坂持先生♪』
プログラム本営のピリピリとして一触即発の雰囲気とは対称的に、快の声は非常に弾んでいた。そして坂持の態度もその雰囲気とは対を成している。
「今から禁止エリアを解除するからちょっと待ってろー。……小鳥遊先生、旗山の禁止エリアを解除してもらえます?」
坂持が首輪の管理業を一切仕切っている小鳥遊に話しかける。その小鳥遊は坂持をじっと見ている。
「坂持先生、気は確かですか?」
「もちろん、大真面目ですよ」
「っざけんな! そんなことが認められると思ってんのか!」
その突っかかってきたのは隣にいた矢神だ。坂持の胸倉を掴んでさっきよりひどい剣幕で坂持に迫る。
「おっと、暴力反対ですよー」
「お前のやろうとしていることは担当官として逸脱しているぜ! そんなことをすれば俺たち全員の責任問題だ!」
「プログラムの意味とは生徒間の戦闘実験です。そういった意味では逸脱していませんよ、旗山の言うことは」
そういうと坂持は矢神の手を払いのける。明らかに矢神の方が腕力がありそうなのだが、あっさりとその力をいなした坂持。怒り心頭の矢神とは対称的に冷静に話を進める。
「まぁまぁ、落ち着いて。どの道、桐山らを殺さなければ我々の責任問題になるわけですし、旗山が優勝した場合も告発の心配もなくなるでしょ。もちろん我々も出張りますがね。あ、もし不満があるのなら私が全責任を負います。それで如何ですか?」
「……俺はこの件には何も関係ない。責任は一切負わん! 桐山も俺がぶっ殺すからな!」
矢神は坂持に当り散らすとそのまま椅子に腰を掛ける。憮然とした態度は変わらないが、とにかく責任は坂持が負うというのだから、この場はそれで納めることがした。何にしても桐山らの抹殺が最重要事項なのは変わりない。
- 212 :【93】:2004/11/09 17:05
- その矢神を見て片陀も席に着く。思っていることは矢神と一緒だ。その二人の態度に満足したのか、話をさきほどの続きに戻す。
「と、言うことです。小鳥遊先生、この件は私が全責任を負いますから禁止エリアを解除してください」
「……わかりました。男子13番・旗山快の全禁止エリアを無効にします。この件には私は一切関知いたしませんのでご了承下さい」
そういうと小鳥遊は黙々と解除作業に入り始めた。それを見た坂持は無線先で待機している旗山に再び応答する。
「旗山ァ、今禁止エリアを解除しているが、他に何か言うことがあるかー」
旗山はここまで来たなら、全部言いたいことを言ってしまおうと考える。できるだけ好条件で戦闘に望みたいものだ。
『それなら、もしこれからぼくに同盟・仲間ができた場合、その人に桐山を殺す意志があれば、ぼくと同条件にしてくれますか? そうすれば桐山を殺れる可能性も増えますし』
一人許してしまえば、後は何人許そうがあまりたいしたことではない。もう誰も坂持を止める者はいない。他は皆、坂持が何を考えているのか分かるわけもない。
「いいぞー。ただし、そんな奴がいればの話だがなー」
旗山はすべての要求が通ったことにとても満足だった。顔にも充実した満面の笑みを浮かべている。思わず近藤に突きつけた銃のトリガーを引いてしまいそうになる。
『じゃあ、この目の前の兵士の人、どうします?』
快の言葉にビクッと身体を震わせて反応したのは近藤だった。今の近藤はいわば人質。しかし快と坂持の交渉にはすでに近藤の存在はどうでもいいものになっている。はっきりいえば用無しの存在である。
「んー、お前の好きにしてもいいぞー」
坂持の非情なる宣言。自分の上司のその言葉によって、自らの生殺与奪権は一切すべてを後ろにいる旗山快に委ねられることになった。近藤はゴクリと生唾を飲み込む。
しかし快が取った行動は意外とあっけなかった。
「だそうです。もう行っていいですよ」
軽く言い放った快は、銃を離し近藤を解放する。近藤は極度の緊張からようやく解放され、安堵感に包まれる。
- 213 :【93】:2004/11/09 17:06
- しかし、それもつかの間だった。近藤は余裕綽々の快を見る。今の今まで自分はこんな若造に殺されそうになったのだという憤慨が心の中でフツフツと湧き上がる。それだけではない。本来なら桐山ら反逆者抹殺は自分達がやる予定だったのだ。それをこんなたかがプログラム参加者、モルモット風情に役目を取られ、自分はもう坂持たちからも見捨てられた。近藤にはもう帰る場所もない。
そして怒りが頂点に達し、ホルスターから兵士用に携帯を許されていたH&K USPを抜く。
「旗山ァ!」
殺意を露にして快に向かって銃口を向けた瞬間、近藤の視線にはすでに何か飛来物が去来していた。そして興奮で聞こえなかったが、自らが叫んだと同時に拳銃の発射音が響いていた。
次の瞬間、近藤は何も知覚することのできない世界へ旅立った。弾丸は近藤の眉間を透過し、脳機能を吹き飛ばしたからだ。近藤は前のめりに勢いよく倒れこんでしまう。それを冷酷に見つめる快。
「殺す時は、声を発さずに殺せ。基本中の基本だよ」
そして無線ごしに再び坂持に話し掛ける快。
『坂持先生、これって正当防衛ですよね?』
その冷酷無比で、さらに無邪気な声色で話す快に、坂持は満面の笑みを浮かべて気分よく軽快に答えた。
「正当防衛だなー」
坂持のお墨付きを得て快は無線を切る。そして近藤から拳銃と無線機を奪う。同様に死体と化した野村から近藤と同タイプの拳銃を回収すると一息つく。
「さて……と」
快は思考に入る。桐山和雄…、あのワイルドセブン・七原秋也を追い詰めたと聞いている。七原が中学生だった頃とはいえ、一人の担当官にあれほどの評価を受ける人物ならば強敵に違いない。それを殺す準備は万全にした方がいい。
そう思うと快の思考は一つのことを行き着く。素人相手に使うことはないと思っていた『アレ』の存在を思い出した。それにニヤリとした快はさっそく行動に移っていった。
夜の到来と共にプログラムは終結に向けて、一つ一つ時を刻み始めた。この先にあるのは激闘と惨劇。その先にあるのは希望か、絶望か。
【残り5人】
- 214 :【94】:2004/11/30 11:51
- 「おーい、お前ら元気にしてるかー! もう日も沈んで夜になりましたー、って見ればわかるよなー。ちょっとこっちでゴタゴタがあって少々放送が遅れたが、先生を攻めないでくれよー。
それではいつも通り死んだ人の発表だが…、今回は多いぞ。男子5番、桐山和雄くーん。男子10番、神宮寺馨くん。男子17番、安田暢彦くん。男子21番和田竜太くん。
次、女子ー! 女子4番、桐生塔子さーん。女子7番、笹長桜さん。女子8番、白鷺麗音さん。女子9番、相馬光子さん。女子10番、宗本千春さん。以上でーす。
生き残っているお前ら、分かったと思うが残りは5人だ! この会場で生きているのは、旗山快くん、元永達意くん、安山覇威怒くん、黒木優子さん、桃生祈さん、お前たち5人だけですよー。
皆さんさすが選抜クラスだけあって優秀で先生も嬉しいぞー。この調子だと今夜中に優勝者がでるなー。それで禁止エリアの発表です。19時にC−6、21時にF−1、23時にA−4だ。
後一歩で優勝だー。お前ら、最後まで気を抜かず頑張れよー」
坂持の放送が終わり、再び坂羽市は静寂に包まれる。放送からわかったことは、この2日目の夜までに32人が死んだこと。そして最後の勝者まで、あと4人死ねばいいということだ。ふとそう思った元永達意(男子16番)は細く笑みを浮かべる。しかし折れた右小指の激痛がその歓喜を掻き消してくれる。
激痛に悩まされるのを苦々しく思うのもあったが、これは自らの戒めでもあった。この傷を負ったのは、日が沈む前の東京化成大学。そこであったお嬢様風の女子生徒(。一度は追い詰めて、楽々撃破かと思った矢先、手痛い反撃を受けた上あまつさえ負傷までさせられて、命からがら逃げ出すという羽目にあった。
- 215 :【94】:2004/11/30 11:52
- 多少高い授業料になったが、達意はそれでいいと思っていた。そもそも殺し合いという自らの存在が証明できる場所で簡単に勝利者になれたら、何ともつまらないだろう。人によって違うだろうが、達意にとっていとも簡単にクリアできてしまうゲームなど何の面白みもない。苦戦し、苦悩し、苦闘してようやくクリアできるゲームこそ、それを達成した時の喜びはひとしおだろう。
達意はさきほどの放送で斜線を引いた生徒名簿を見る。残る女子は二人。この内一人が、さきほどのお嬢様なのだろう。もちろん、達意はそのお嬢様−桐生塔子(女子5番)が生きていると思っていた。自分にあれほどの手傷を負わせた相手がまさか死んでいるとは露とも考えなかった。その塔子は達意がさきほどの戦闘で負わせた銃痕からの失血で生命を落としていたのだが、達意はそんなことを知る術はない。
そして自分を除いた残り二人を含めた四人に思いを馳せる。これからは本当に苛烈を極める最終血戦になるだろう。それこそ、血で血を洗うというのが適切だ。ここに甘い戯言をいう偽善者はいない。死に選ばれた殺戮者、血で染まった英雄だけだ。その中で戦い抜き、生き残ることはとてもとても難しいことだろう。
だが、達意には自信があった。根拠は何もない。下手すると自分より殺し合いが得意な奴が残る四人の中にいるのかもしれない。しかし達意は殺し生きる決意があった。達意は殺し合いという特異な状況がどんなものに左右されるか、知っていた。殺し合いに長けた者が生き残るのではない。より願いが強い者が生き残るのだ。
実際に達意はそれをさきほどの戦闘で学んだ。実力・戦力・状況から言っても、さきほどの戦闘は圧倒的に達意が優位だった。しかし、塔子はその状況を打破し、逆転した。結果的に達意はボロボロの状態で撤退にまで追い込まれた。
スポーツなんかは日々の努力やら、技術や体力がモノをいうのだろう。しかし、殺し合いは違う。結局の所、最後まで意志が強い者が生き残るのだ。一昔前まで精神論がどうとやらと言われていたが、あながち間違いじゃない。
- 216 :【94】:2004/11/30 11:53
- 俺の意志…、それは殺意。相手を殺す。虫ケラのように殺す。花を踏みにじるように殺す。あらゆる感情を混合して、殺す。さきほどの塔子の言ったことなど戯言だ。何も感じずに殺す、などと。殺し殺される時こそ、人間が一番正直で、最も美しく輝いている時だ。誰かが言ったのを聞いたことがある。
「人間は死に直面したら、嘘はつけない」
まさにそうだ。人間は自分に正直な時こそ、最も鮮やかに光っている。それが塗り固められた偽善であっても、ドロドロの欲望であっても、殺し合いの果てに見えるものだったのだら、何より美しい。
だから死ね。俺以外の人間は死ね。俺に見せてくれ、お前らの真実の姿を。
鮮やかに死に花を咲かせろ。そして俺をもっと悦ばせてくれ。
達意はまどろみの中、目を覚ました。どうやら色々考え事をしているうちに少々眠りについていたようだ。自分の不覚に舌打ちにしながらも手の中のイングラムM11を構えて周囲の様子を伺う。
…どうやら敵と呼べる存在はいないらしい。時計を見ると約1時間弱眠っていた事実を理解することができる。いくら疲労困憊だったとはいえ、こんな戦場のど真ん中で寝るなんて、全くらしくなかった。
「チッ…、慣れないことを考えるモンじゃねぇな…」
そう思って自分が可笑しくなってしまう。感傷なんて浸っている場合ではないのに… これもあのお嬢様に会って変な空気に当てられたか?
(全く、冗談じゃねぇぜ! あのアマの気の触るバカ事にいちいち気にしていられるか!)
その時、自分の右手前方からガサッという草を掻き分ける音が聞こえた。その音に敏感に反応した達意はイングラムのトリガーを引き絞る。無数の弾雨はそのまま音の発信源を蜂の巣にした。そして再び沈黙が訪れる。
- 217 :【94】:2004/11/30 11:55
- 「……死んだかよ? それとも…、まだ生きていやがるかぁ?」
達意は残酷なせせら笑いをしながら、ゆっくりと警戒しながらその場所に近づいていく。一歩一歩慎重に… どんな音にも敏感に反応するように…
すると今度はその音の左側から音が聞こえる。すぐさま反応した達意は右手のイングラムをその方向へと向ける。そして数発、その場所へと撃ち込む。
だが次の瞬間、右腕に衝撃が訪れる。何かに強烈に当たったような衝撃は、右手に激痛を与え、イングラムを掴む力を失わさせた。そして持っていたイングラムが地に落ちて、達意はその衝撃が起きた方向へと視点を追わせる。
しかしその視点はすぐに凍りつく。なぜなら、その先には何度も見たであろう銃口が傍に見えたからである。そしてその先に見えるのは、達意が浮かべていたであろう残酷な笑みを浮かべる人間の姿。
「Freeze! 動くと、殺るゼ?」
達意は最初の多少聞きなれない発音と言葉に少々驚いていた。この発音と言葉は、英語。過去に外国で暮らした経験のある達意にはそれがはっきりとわかった。
月灯りに照らされて現れた姿は、とても大東亜人には見えなかった。その一般中学生の平均的な身体を悠に超えるであろう、大柄な身体。そして月光で美しく輝き、綺麗に靡く銀髪。男は狂気を宿した瞳で達意を見下ろす。
「お前は……、HATAYAMA…じゃないか……」
キャリコM960をしっかりと握った安山覇威怒(男子18番)は獲物を捕らえた狼のように、まさに飢えたオーラを全身に身に纏っていた。
【残り5人】
- 218 :【95】:2004/12/23 13:44
- 漆黒の闇に脅えているかの如く、元永達意(男子16番)は動くことができなかった。いや、動けるはずもない。自分の正面から千本針で全身突き刺されるように感じる殺気が動くことを本能的に拒絶している。銀髪鬼、戦闘者、そういった形容詞は目の前のコイツにこそ当てはまる。
安山覇威怒(男子18番)と対峙した瞬間、達意は言い知れぬ脅威を感じ取っていた。その人目も気にする銀色の髪もさることながら、プログラム対象年齢である中学3年生を遥かに上回る体つき(安山の場合、ある特殊な条件で中学3年ではなく17歳での参戦だったのだが達意は知るはずもない)。そして銃を持って今達意の生命を奪おうかと言う時だというのに、この冷静さ。高揚は見られるものの、動揺や迷いは一切見られない。
これを見て達意は実感した。この男は人を殺したことがある。しかも一人二人なんて数じゃない。人を殺せと言われれば何の迷いもなく殺れる、そんな人種だ。それこそ、一口ステーキを噛み砕いて飲み干すくらい容易くできてしまう。殺人をその程度で実行できる人間の定義に当てはまる自らと同種の人物。
その人間を前にして、達意の今の戦況は最悪極まりない。すでにサブマシンガン級の武器を顔に突きつけられている上に、自分のイングラムM11はさきほど弾き飛ばされてしまった。もうひとつのサブマシンガン・イングラムM10は咄嗟の警戒だったのでバックのすぐ傍に置いたままだ。自分の唯一の武器は腰にある日本刀のみ。反撃しようとしてみても少しでも怪しい動きをすれば、相手の銃で蜂の巣になるのは周知の事実だ。つまり今の状況では自分は王手、チェックメイト、地獄に片足突っ込んだ状態なのだ。
「チッ、4分の一の確率なのにハズレを引くとはな…」
(ハズレ…? どういうことだ? そういやコイツ、誰かを探しているようだったな…、確か、ハタヤマ…)
安山が舌打ちをしている間、達意は何とか思考を働かせてみる。確か自分以外の生き残りの奴で、そんな名前の奴がいたような…
だがそんな拙い考えを展開する前に安山の眼光が再び達意の意識を正面へと持ってこさせる。
「中々いい武器を持ってたじゃないか。イングラム…、サブマシンガンだったかよ?」
まだ自分に話すということは殺す気はないということだ。少しでも時間を長引かせれば戦況は変わるかもしれない。狂おしく歪んだ笑みを浮かべた達意は、そんな冷徹な思考を隠したまま、安山の会話に付き合うことにする。
「まーな。もう一つサブマシンガンならあるぜ? 何なら見せてやろうか?」
「ハハッ、大漁だなこりゃ。旗山を殺す時に役立ちそうだ」
「で、俺をどうするつもりだよ?」
- 219 :【95】:2004/12/23 13:46
- そういった瞬間、安山の愉快顔が引き締まる。達意は挑発的な態度を崩していないことが癪に障ったのだろうか。しかしこれはもう本人の気質なのでもう隠しようがない。だが安山は至って冷静だった。
「随分余裕だなぁ。お前、まさかまだ自分が死なないとでも思ってるのか?」
「さぁな? でも人生どんなどんでん返しが待っているか、わかったモンじゃないぜ」
「その奇跡も俺がトリガーを引き絞れば100%起こらないものになる。口は慎んだ方が長生きするぜ、Boy!」
安山は脅しのつもりでほんのちょっと銃のトリガーにかけてある人差し指に力を込めてみる。だが眼下の達意は一向に怯む気配はない。それどころか、ほんの少しの隙を狙って獰猛な牙を研いでいるように見えた。今の状況を絶望する敗者の眼ではない。最後まで抗う反撃者の眼だ。
「フン、気にいらねぇ。気にいらねぇなぁ…」
敗者とは常に絶望に彩られていなければならない。それが殺す者を勝者だと認識させることにもなるからだ。だがこれでは本当の勝利ではない。心が折れなければ本当の勝利ではない。それがこんなあっさりした形での殺しならなおさらだ。
「お前の武器、日本刀か。……クックック、いい余興を思いついたぜ」
そう言って笑い出した安山は突然達意に突きつけていた銃口を下げる。その瞬間を心待ちにしていた達意はすぐさま日本刀を居合いの要領で抜き、刀身を安山に向かって斬りつけようとする。もちろんそれは安山にとっても予想の範疇だったので、刀身は当たることなく虚しく空を切った。
達意は最後のチャンスをみすみす逃したことを悔いたが、安山の顔を見て異常さを感じ取った。愉しい遊戯を思いついた時のような、子供の無邪気な笑い。それに残酷さとどす黒さが混ざり合った、何とも不快な笑み。
「おい、お前にチャンスをやるよ。なーに、ちょっとしたGAMEだ」
そう言って手に持っていたキャリコを後ろの腰に納めて、代わりにもう一つの武器のトンファーに持ち変える。この行為に達意は不可解極まる気持ちだった。一体何をするつもりなのか、読めない安山に心が惑わされていた。
「簡単なことだ。お前が日本刀で戦うなら俺はコレで殺ってやる。もしイングラムを手にしたら容赦なく腰の奴を使わせてもらう。そーいうGAMEだ」
- 220 :【95】:2004/12/23 13:47
- ニヤニヤと下卑た笑いをする安山とは対称的に、達意は激昂していた。つまり自分は遊び相手として舐められているのだ。この屈辱はさきほどの桐生塔子に受けたものよりも何百倍も達意の神経を逆撫でした。
「テメェ…、ボロボロに切り刻んでやる!」
エモノは同じ近距離武器。達意は日本刀、安山はトンファー。殺傷能力もリーチも達意の方が圧倒的に上回っている。つまり目の前の安山にとって、達意はこれだけで十分な相手だと判断したということに他ならない。
(舐めやがって…! ぶっ殺す!)
相手への殺意を剥き出しにして達意はそのまま安山へと襲い掛かる。真っ二つに斬るつもりで刀を振り上げて、刀身はそのまま三日月の軌道を描いて疾駆する。
その冷静さを失った達意の斬撃を安山は軽々回避し、軽快なステップで易々と達意の懐に入り込んでくる。そして左のミドルフックが達意の脇腹に突き刺さる。メキッという骨が軋む音が感じられるような重い打撃に達意は顔を歪ませる。そして次は右手に持ったトンファーを達意の右のこめかみに叩きつける。
その一撃を食らって達意は意識が朦朧となる。何が起こったかなどわかるはずもない。すでに手に持っていた日本刀は滑り落ちて自分の遠くの方に転がり落ちている。なぜあんなところにいってしまったのか。達意はわからなかった。自分が吹き飛ばされたということを認知することもできなかった。地面とキスしそうになった達意を再び正面へと向けさせたのは、安山の顎への蹴りの衝撃からだ。顎への打撃によって視界が揺れている世界を眺める達意の正面を立つ安山。その表情は残酷かつ獰猛なる笑顔が宿っている。
「さーて、まだまだGAMEは始まったばかりだぜ」
そこから5分間はすでに戦闘と呼べるものではなかった。強者が弱者を嬲る儀式、リンチ、虐待。そんな言葉がふさわしい。安山の的確かつ痛みのポイントを捉えた打撃は達意を大いに苦しませた。安山のその行為にしだいに酔いしれていく。そのたびに攻撃は激しさを増していく。それでも殺しはしない。安山はまだまだ満足していない。彼が満足するまでその行動は続く。それが飢えた獣のルールなのだから。
- 221 :【95】:2004/12/23 13:49
- 地獄の責め苦に耐え続けていた達意は、その痛みの中でも意識はしっかりと保っていた。別に痛みを感じたいわけでもない。かといって意識を手放すなどもっての他だった。彼がここで痛覚を遮断してしまえば、何も感じなくなってしまう。それではあの桐生塔子を肯定したことになってしまう。
人の行動には何かの動機が生じる。人はそれによって行動するものだと信じてきた。それすら感じてしまっては生きている意味などない。達意にとって痛みを感じなくなるということは死と同意義なのだ。
そして達意は安山の打撃の嵐の中、微かに笑った。それを見た安山は殴るのを止める。その合間をぬって達意は唇をゆっくりと動かす。
「チィ…、俺の負けかよ……」
「What? 何をブツブツと…」
顔は痣だらけになり、身体もかなりボロボロまでに痛みつけた達意が笑いながらそんなことをブツブツ言い始める。安山はついに精神がイカれたかと思った。そしてそれが勝利への快感となって安山を満たしていく。
だがその愉悦に満ちた安山の顔に血反吐が混じった唾を達意が吹きかける。本当は唾のつもりだったが、口の中を切って完全に口内は血の匂いでいっぱいだった。
「殺れよ、クソヤロー」
そう言って、力を振り絞って腕を持ち上げ、中指を突き立てる。「Fuck!」という意味を確かに受け取った安山は再び鬼のような形相で激昂する。まだまだ痛みが足りないのか、そんな苛立ちもあったのだろう。しかし本能的には安山は達意の不気味な不屈心を恐れていたのかもしれない。そしてそれを必死に否定したかったのだろう。
「余裕ぶってんじゃねぇぞ、Under Dog!」
今度はトンファーで頭蓋骨を叩き割るつもりで、安山は右腕を振り上げる。達意はそれを見ていることしかできなかった。
だがその行為は一発の破裂音によって静止された。二人の顔にはもちろん驚愕の色がにじみ出ていた。
「言ったよね、君は僕が殺すって」
銃を撃った少年はそう二人に向かっていった。安山は達意のことなど忘れてそちらに振り返る。そこには血泥みの戦場に不似合いの、清らかな笑顔を浮かべる旗山快(男子13番)が佇んでいた。
【残り5人】
- 222 :名無しさん@プログラム:2005/03/22 21:56
- 一時の静寂。安山覇威怒と元永達意は、自分たちの戦闘(とは言ってももはや一方的なリンチに近いものがあったのだが)に割り込んできた旗山快に驚き戸惑っていた。いきなりの銃撃、そしてその存在感は他を圧倒する何かがあった。手馴れた動作で銃を撃ち人を殺す姿は最早美しくもある。達意は朦朧とした意識の中でそんなことを考えていた。
一方の安山はようやく会えた宿敵に歓喜することができなかった。なぜなら自分は旗山の銃撃まで奴の接近に気づくことができなかったことにある。達意に対しての暴力の悦楽と苛立ちがあったとはいえ、周囲の警戒が得意の軍人にとってプライドに関わる問題だ。そして何より、その銃撃で腹部に鈍い痛みを感じることが最大の要因だろう。自らの身体に穴が開き、血が溢れ出している状態で気分などよくなるはずもない。
快は油断することなくニコリと笑顔を浮かべる。手にはさきほど強奪したH&K USPがしっかりと握られている。その銃口は安山を的確に捉えて微動だにもしない。安山は屈辱感にも打ち震えながらその名前を口にする。
「HATA…YAMA…!」
激痛を堪えて口にするその名。安山にとっては最も会うことを渇望した相手。そして最も自分の手で殺したい相手でもある。恋人と恋敵にあったような気分の安山に対して、快は安山の顔を見ながらニコリと微笑するほど余裕綽々の態度だ。
「約束を守りにきたよ」
これほどの屈辱があるだろうか。自らが殺したい相手に殺されそうになるという恥辱。相手の殺人宣告を受け入れようとしている自分。その自分を見ていると思い出してしまう。あの真咲龍馬との死闘を。圧倒的敗北と圧倒的恐怖。それを思い出してしまう。安山にあの時の言葉は反芻する。
『もうちょい手応えがある奴と思っていたのだがな・・・』
あの自らの生命を簡単に手中に握ったと言わんばかりの言葉。自分を虫けらのように見る視線。すべてが気にいらなかった。そしてその異次元の強さに恐怖してしまった。もう認めるわけにはいかないのだ。二度と、あのような屈辱の敗北感を…
『身の程知らずの屑が… お前如きはもう一度地獄に落ちるのがお似合いだよ』
その脳内に響く真咲龍馬の言葉が浮かんだ時、すべての感覚がシャットアウトする。アドレナリンは大量に放出され、殺戮欲だけが安山を支配する。
「旗山ァァァアアーーー!」
- 223 :名無しさん@プログラム:2005/03/22 21:58
- 力あふれる限りの声を振り絞って、安山は自らを鼓舞する。すでにトンファーを捨てて右手は後ろの腰に挿してあるキャリコを掴もうとする。
だが後ろに手が回る前に快のUSPが火を噴く。轟音と共に的確に疾駆した弾丸は安山の右人差し指と中指を吹き飛ばす。だが安山は決して怯むことはない。
その安山に対して眉一本動かさずに快は凄まじいほどの凄惨な射撃を開始する。致命傷は狙わず、相手の戦闘力と行動力を、精神力を奪う拷問のような射撃。両足に2発ずつ、両腕に2発ずつ、両肩に1発ずつ、両脇腹に1発ずつ撃ち込み、計12発被弾させたところで銃撃を止める。
両手両足、さらに身体にも被弾したにも関わらず安山は地面に膝を突かない。その姿を後ろから見ていた達意は戦慄を覚えずにはいられなかった。身体にあれほど鉛玉を食らって立っていられるなんてコイツはゾンビかターミネーターかと想像した。
「ハ、ハ、ハタヤ…マ……」
安山の身体を支えているのは、プライド。受け入れ難き敗北が生み出したほんのちっぽけで、今の安山の生きる糧になっているもの。だがそれだけで人間は生きていくことができる。彼は真に正しかった。
だがそれすらも冷笑したのは、快。
何を足掻く? 何をそんなに必死になっている? バカらしい!
自分の存在をもう一度再確認する。ぼくは旗山快。生命を終わらせ、自らの生命を確認する、殺戮者(ジェノサイダー)。
「Good by、YASUYAMA」
米帝で「さよなら」の意味をする言葉を告げ、快の銃口から弾丸が発射される。その生ける死神は戦場を疾駆し、安山の頭蓋骨に到達する。死神は頭蓋骨をこじ開け、脳組織を徹底的に破壊し、そしてまた頭蓋骨を突き抜けて出て行った。荒々しく破壊された後、残ったのは地面に大の字になって倒れこんだ、銀髪の少年だけであった。
- 224 :名無しさん@プログラム:2005/03/22 22:00
- 安山覇威怒が死んだ。この事実を達意はゆっくりと受け止めようとしていた。つい数分前まではこんな結末が訪れるとは夢にも思っていなかった。さきほどまで自分を見下ろしていた安山は、今はただの肉塊となって地面に横たわっている。
だが助かったという心地は微塵も感じてはいなかった。ただ自らを屠る相手が変わっただけのことだ。安山を撃ち殺したUSPをほんの少しも降ろすことなく、快の銃口はそのまま達意の眉間へと定まっている。
死の恐怖は確実に達意の精神を麻痺させようとやっきになっていたが、不幸というべきか幸いというべきか、安山から受けた全身の傷や痣の痛みは達意の精神を正常に保っていてくれた。そしてそれは、達意が冷静に自分の死を自覚できることでもあった。
神様とやらがいたら、助けを求めて一発逆転な奇跡を頼みたいところだが、そんなものもいないし第一達意は徹底的に嫌われているだろう。罪もない同級生を惨殺し、面識のない人間を切り刻んだ人間が行くところなんて、地獄の閻魔に愛されているに決まっている。達意はそれをわかっていた。
だからここで野垂れ死ぬのも当然だ。クソのように生きて、クソのように死ぬのも悪くない。
快のUSPの引き金がゆっくりと引き絞られる。それが達意がこの世で見る最後の光景になる、はずだった。しかし現実には、達意の意識はそのまま健在していた。正確にいうならば銃弾はUSPから出ることはなかった。
USPの弾は安山の頭蓋を破壊した一発が最後だった。そして達意を殺す弾丸は残っていなかった。快の計算違いだった、かというと違う。快はしっかりと残弾数を数えていた。そしてUSPの弾がきっちり切れるその瞬間に、安山を屠ったのだ。
微かに笑みを浮かべながら、銃弾のないUSPを構えながら達意に近づいていく。そして銃口と達意の眉間の距離がゼロのところで快は立ち止まる。達意は木に背もたれながら、快を見上げる。その余裕の表情は安山のそれと違っていた。
「これで君の生命はぼくのものになった」
安山を獰猛な獣と形容するのなら、彼は無邪気な子供に見えたのだ。
「あ……?」
一瞬、快の言ったことが理解できずに呆気に取られた声を放つ。それを見ても快は何も表情を変えずに淡々と会話を続ける。
- 225 :名無しさん@プログラム:2005/03/22 22:02
- 「ぼくと組むというのなら君を生かしてもいい。どうだい?」
「……どーいう意味だ…… この状況でテメェが俺と組むメリットはあるのかよ…」
プログラムも終盤、生存者も一桁以下となり、いよいよ優勝者が決まると言う時に同盟を持ちかける。その可能性は否定できない。しかし見ての通り、達意はボロボロ。しかもこの目の前の少年はバケモノじみた強さを誇った安山をいとも簡単に殺してみせた。その実力があれば組むことなんて面倒なことはしなくてもいいはずだ。
「うーん、実はね、ある事情があってプログラムに反逆者が出たんだよ。それを狩る任務を僕が承ったの。それの手伝いをして欲しいんだ」
快はできるだけ真実を、そしてできるだけ情報を隠した事実を話そうとしていた。反乱自体はおかしいことではない。しかし、「首輪を解除できる」人物の反乱では物事の捕え方が違うだろう。話す相手によっては、反乱分子に共鳴する可能性も否定しきれない。
だが目の前の達意という人間に、快の不安は無用な心配だった。
「テメェ…、ふざけてんのか? 俺から見ればテメェも敵なんだぜ?」
この発言を聞いた時、快は達意という人間を理解した。そして彼がどんな状況になろうとも、自分自身の行動を変える心配もないと不安も吹き飛んだ。
「なら隙を見て殺すのもアリかもね。でもぼくを殺そうすれば遠慮なく殺るので、慎重にその時を伺うことだね」
快が行っているのは交渉ではない。話し合いでもない。いわば達意に自分と同盟と組ませるという強制を含んだ誘惑である。餌は生存の可能性、逆転のチャンス。それが罠であっても、食いついてくる。そこに未来が続いているのならなおさらだった。
そしてそれが快が、安山と達意を争っている時に、どちらを殺し、どちらと組むという選定の分かれ目だった。
「一つ言っておく。優勝するのは俺だ」
達意に選択の余地はなかった。ほとんど強制的ではあったが、まだまだ生きることができる。クソのようなこの戦場で戦い、生き残れるチャンスがある。それがある限り、快の思惑など知ったことか、というのが達意の意見だった。運がよければ快を殺して、生き残れるだろう。
(ほんのさっき、失いかけた生命だ。チップ代わりに賭けてやろうじゃねぇか! 俺がコイツを出し抜いて生き残れる方へよ!)
一方の快はというと、まさに自身の思惑通りの展開だった。その言葉に満面の笑みを浮かべて問い返す。
「それはぼくと組むと言うことでいいのかな?」
達意のプライドを逆撫でしても意味はない。用は同盟を組むことが重要なのだ。駒は多い方が、戦略の幅も広がりいいにこしたことはない。達意は少し気に入らない顔をしながらはき捨てるように言う。
「テメェは最後まで後回しだ。全員殺した後に必ず俺を生かしたことを後悔させてやるからな!」
「ふーん、まぁそういうことでよろしく。ぼくは旗山快。君の名前は?」
達意の強がりを軽くいなし、マイペースに物事を進めようとする快。その圧倒的な自己中ぶりに全身傷だらけの達意は怒る気力もない。
「……話聞く気ねぇだろ? 元永達意だ。よーく覚えてやがれ。いずれ…」
「元永君ね。じゃあ坂持先生にさっそく連絡しなきゃ」
「って人の話を聞きやがれ!」
- 226 :名無しさん@プログラム:2005/03/22 22:04
- 肝心な情報だけ収集して、あとは見事に雑音を遮断する快。その後、達意が文句を言っているようだが聞こえていない。もちろん、聞く気もない。まぁ、しばらくパートナーになるわけだし、別にぞんざいに扱う気はない。
それより快にはもう一つ、気になっていることがあった。
(さて、一人確保したけど、さっきからぼくの後ろに着いて来ている『あの子』…… どうしようか?)
坂持への無線機を握り締めながら、決して視線をやることなく、その気配がする方向へと神経を高ぶらせる。大分前から尾行されているのだが、全くといっていいほど仕掛けてくる気配もない。こちらの油断を待っているのだろうが、さきほどの戦闘時も仕掛けてこなかったということは、戦闘技術に秀でているのではないかもしれない。あるいはよほど慎重なのか。
(うーん、でもあの子出てくる気なさそうだからなぁ… 刺激するのもなんだし見ないことにしとこうか)
結局、快はその気配を気にすることなく、坂持への通信を始める。達意の桐山狩りメンバーへの推薦、首輪の禁止エリア解除などの説明を行い、承諾を得ると早々に通信を切る。
そして通信の後、快の感じていた気配は跡形もなく消えていたという……
【残り4人】
- 227 :【97】:2005/03/23 02:52
- (………何だかややこしいことが起こっているようね)
すぐ近くからは少年の話し声が聞こえる。それとともに微かに聞こえるオジサンの声。そのノイズは遠くからでも不快でたまらない音質をしている。担当官・坂持の声に間違いない。いつも放送のときに聞いているから、という確信もあった。
だがその少女にはもっと深い確信があった。なぜならバックに入っている携帯電話のスピーカーからダイレクトに耳にその声を聞いたことがあるからだ。耳は比較的いいのに加えて、この静寂な空間が彼女の耳に情報をもたらしてくれる。
次々と入ってくる情報を黒木優子(女子5番)は、必死に整理して理解しようとしていた。理解するべきは、現在の状況。そして自分が生き残るために何をするべきか、という指針を打ち出さなければならない。
これを間違えれば待ち受けているのは、死。優子が望む世界へは永遠に帰ることができない。優子は冷え切った冷静な脳で思考をフル回転させる。
(キーワードは、反乱者。そしてそれを狩る者。担当官の坂持。この人物を結び付けていけば、自ずと真実が見えてくるはず……)
そもそも快を尾行していたのは、本当に隙を伺っていただけだった。残り人数も少なくなってきたことだし、大胆に動いてもいいころだと思っていた。何より前の戦闘で武器を大量に確保できたことが優子の思考をそうさせていた。なおかつ、あまり強そうに見えない快なら何とかなると踏んでのことであった。
しかし、その考えを慎重な方向へと方向転換させたのは、快の超人的な戦闘能力を目の当たりにしたからだ。尾行して間もなく、専守防衛軍らしき人物2人を出くわした快は、一人をあっけなく殺害。もう一人を捕縛し、通信機で何かを喋りだしたと思ったら、もう一人も見事な手際で殺しのけたのである。これを見た時、優子は自らの驕りを制止し、勝てるまで動かないでおこうというスタンスに移行したのである。
何より、この少年がファイナリストまで残るという確信を優子が持ったから、優子は危険かつ慎重な尾行を開始したわけだが。
そうしている内に、次に出くわした銀髪の生徒を殺して、さあ次はその銀髪に殺されかけていた瀕死の生徒を殺すのか、と思えば一向に殺す気配がない。様子がおかしいと耳を澄まして情報収集を試みたが、思わぬ情報に出くわしたのである。
- 228 :【97】:2005/03/23 02:54
- まずは反乱者。反乱、ということは何か反抗したのだろう。このプログラムで反乱を起こせるといえば、脱走くらいなものである。もしくはプログラム本営を潰すために戦いを挑むくらいか。
いずれにしても首輪が大きな障害として立ちはだかる。首輪で監視されている限り、私たちプログラム参加者には、脱走することも、それを管理する者たちに戦いを挑むことなんてできはしない。
だが、目の前の少年はそれを狩るモノだといった。そして担当官の坂持と話しているということは管理側からも認められた公認の狩人といったところだろう。優子が少し目を凝らして見てみると、その少年の首には自分と同じタイプの首輪が装着されている。つまり彼も自分と同じ参加者ということだ。
なぜ一介の参加者である目の前の少年が、担当官である坂持に反乱者を狩る権限を与えられるのだろうという疑問はある。しかしそれは優子が生き残ることには何の関係もない。優子がこの推測で確認したのは、プログラムを脱走・もしくは破壊しようとする反乱者が確実に存在することである。それは狩るモノの存在や坂持の対応を見れば、その証明となる。
ということは反乱者は首輪を無効化・もしくは解除する術を見つけ出し、その技術を有しているということにも繋がってくる。これは優子にとっても朗報である。もしも、その反乱者とコンタクトを取り、この首輪を解除することができたなら、優子の生存率は確実に上がるだろう。殺し合いはしない方が殺される危険性も薄まるからだ。
しかし反乱者と会うには危険が伴いすぎる。私と組むとは限らないし、この凄腕の少年という狩るモノの存在もさることながら、プログラム管理側も黙ってはいないだろう。この国を事実上、武力で押さえつけている力の源・専守防衛軍をなめてはいけない。その危険を省みてその反乱者と会うべきだろうか。
ならばいっそのこと、少年のように狩るモノの側についてみるか。政府と取引しているようだし、もしかしたら特典で反乱者を狩ればプログラム生還の権利をモノにできるかもしれない。
いいや、ダメだ。反乱者が頭だけいいとは限らない。とんでもない運動能力を持っているかもしれないし、戦闘能力もない奴だと限らない。なおかつ、正面から戦うことになるだろうから死ぬ危険性は増すばかりだ。
そして何より、坂持という人間を優子は信用していない。例え取引しても土壇場で裏切るような雰囲気を持っているのだ。そして人間に対して残酷になれる一面も持っている。じゃなければ、わざわざ幼い一般女子を銃弾と火炎渦巻く戦場へ放り出したりはしない。
- 229 :【97】:2005/03/23 02:56
- (状況はわかったわ。プログラムを潰そうとする人とプログラムを守ろうとする人の戦いが始まろうとしている。そして私が考えることは、私がどうするべきか、ということ。どっちに着くべきか、ということ………)
この究極の二択。間違った選択をすれば、優子に待ち受けているのは、死あるのみ。ゆっくりと考え、慎重に冷静に答えを探す。時間はない。しかしこの決断は時間をかけて、自らが優勢になる方向へと導く答えをださなければならない。
しばしの沈黙、しばしの思考、しばしの暗黒。優子は目を閉じて、考えることのみ集中する。そして優子の瞼が再び開かれた時、最良の答えが出た。
(そうよ…… 私は何もすることはない。『動かなければいい』のよ)
そう、特に何もする必要はないのだ。自ら動かなくても状況は勝手に動いていく。それは優子が加わろうが、その外に居ようが例外ではない。つまり優子はその流れの中ではいてもいなくてもいい存在だ。
つまり、こういうことだ。反乱者と政府側&狩る者、この対決の勝者がもたらした状況に優子が加わっていけばいいのだ。
もし反乱者が勝てば、首輪の機能は停止してプログラムは中止。それに便乗して脱出することも可能ではある。そして無事にここから生還することができる。もちろん大東亜共和国内では生きていけないが、クローン体である自分が国内で生きていける保障もないし、海外へ脱出すればいいことだ。この首輪の脱出口を見つけるひとだから、反政府組織やらそういった組織に連絡を取るくらい朝飯前だろう。
そして政府と狩る側が勝った場合、この場合は何てことはない。そのままプログラムを続ければいい。さきほどの放送ですでに生存者は5人と発表された。そのうち、銀髪の生徒はすでに死体になって転がっている。残るは、目の前の坂持と連絡を取っている少年と、銀髪と戦ってボロボロになっている少年。そして残るはもう一人の女子だけだった。おそらく反乱者もただでは死んではくれないだろう。この参加者二人に手傷を負わせる。最高の形は両者ともに相打ちになり、残る二人で女子同士の戦いになってくれれば楽になれる。そして自分が優勝して、優勝者として堂々と生還すればいい。ただクローン体である自分を政府が生かしておくかという一抹の不安があるが……
とにかくどっちの道でも、今自分が下す最良の選択は何もするなということだ。後の行動はこの戦いの結末が決めてくれる。
- 230 :【97】:2005/03/23 02:58
- (どっちにしても、何らかのアクションがあるはず…… タイムリミットは次の坂持の放送までかしら………?)
どちらが勝つか。そのことには関心はある。調べる方法はないことはない。
優子は自分の支給武器である質問付き携帯電話を握り締め、静かにゆっくりとその場をあとにする。彼女は時が来るまで何もすることはない。「果報は寝て待て」というように、動くことも大切だがよい結果を得るには待つことも大切なのだ。
(さてと、どちらかが勝つまではゆっくりと待つとしましょ。私が動かなくても勝手に私が帰れる状況が整うなんて、何て楽なのかしら!)
優子の考えていることはただ一つ。「自分だけ」が安全かつ確実に生還すること。そして平穏な日常を手に入れること。そのためならば、外道と呼ばれようと地獄を落ちる所業を行おうともいとわない。
黒木優子。彼女こそ、プログラムにおいて最も強い人間かもしれない。なぜなら彼女は生きる術を理解しているからだ。殺し合いでは弱小でも、生き残り合戦では彼女こそ、最も強い。
この地獄で、彼女は考えている。自らを脱出へ導く蜘蛛の糸を。そして御伽話と同じ轍を踏まないように、他の奴らが蜘蛛の糸に乗ってこない方法を。それが正しいことだと考える彼女はこの地獄では最も正義に近いのかもしれない。
【残り4人】
- 231 :【98】:2005/03/23 03:00
- 「おおう、それじゃ頑張れよー」
独特の音質で無線を切ったのは長髪を靡かせた坂持金発(担当官)。さきほどから旗山快(男子13番)と通信していて、元永達意(男子16番)を「反乱者狩り」のメンバーに入れるので首輪の禁止エリア機能を切るようにお願いされていた。その作業を実行した後、労いの言葉をかけて生徒を送り出した、といったところだ。
そしてふと、生徒の現在位置が映ったモニタを眺める。快・達意の他に近接して黒木優子(女子5番)の反応があるのだが、二人から徐々に距離を取り出してきた。いや、二人から離れているといったところだろう。確かずっと快を尾行していたはずだが、ここにきての離脱。前情報を携帯電話で知っている優子なら、ある程度戦況がわかったのかもしれない。その上で行動しているのだからある程度意味があるのだろう。
「坂持先生、矢神先生たち3人が配置についたそうです」
そんな思考に浸っていると、目の前でパソコンに向かって作業をしている小鳥遊桐子(担当官)が話しかけてくる。隣にいる折本等御(担当官)もせわしく働いている。
「ああ、そうですか。それでは引き続き防衛線の死守をお願いしますと伝えてくださーい」
プログラム本部であるこの公民館内にいる担当官は、今の時点で坂持・小鳥遊・折本の3人だけである。つい先刻、矢神至(担当官)・片陀泰狼(担当官)・江ノ島栄八(担当官)の3人はこの公民館に通じる公共道路に防衛線を張りにすでに移動していた。
この公民館、位置でいうとかなり辺鄙なところにある。プログラム会場となっている坂羽市エリアからこの公民館にくるにはその公共道路を通る他には辿り着くことができない。その他の道は、絶壁や河などに阻まれているからだ。それに徒歩でくるにはかなり遠距離に位置しており、車などの移動手段を使ってくる可能性が高いので道路で待ち伏せするのが得策だと担当官側は判断したのだ。
担当官3人は本部にあるもてる限りの重火器を持って防衛に望んでいる。AK−47カラシニコフ3丁、手榴弾6個、コルトガバメント5丁、さらにM−72 LAW(携帯用ロケットランチャー)2砲まで持ち出している。小規模軍隊クラスの装備で、中学生に備えようというのは専守防衛軍兵士としては情けない話であるが、油断は禁物という坂持の判断でここまでの装備を持ち出した。
今いる本部の担当官の武装は、それぞれ持つトカレフTT−33のみとなっている。
- 232 :【98】:2005/03/23 03:01
- 「坂持先生、本当に桐山たちは来るとお思いですか?」
折本はなおも怪訝そうな顔で坂持の表情を伺っている。さすがにここまで用意する必要があるのか。そもそも脱走する可能性が高いのでは、と折本自身思っているからである。
「来ますよ。必ず……ね」
その折本の不安を払拭するように、坂持は自信満々で、なおかつ不敵な表情を浮かべる。
「ネズミを狩るネズミにも期待していますよ。できればその展開になるのが理想的でしょうけどねー」
ネズミ・・・、つまりプログラムで実験されているモルモット=生徒たちのことであろう。皮肉にもその表現は当てはまっている。ただ、これが実験と言う名の娯楽という点を除けば、ではあるが。
「ネズミに手が負えないならネコがそれを始末するのは当然のことでしょう」
その時の坂持の笑顔に折本は少なからず戦慄していた。これほどまでに「人」は「人」を「人」と思えなくなるものだろうか。この仕事をやっているとその感覚が欠如されているが、坂持の場合何か得体の知れない、我々とは何か違うものを感じ取ってしまう。
「坂持先生、山羊歯先生とようやく連絡が取れました」
小鳥遊はそういうと少し怒気の含んだ声を発する無線機を耳元から離しながら、坂持の方向へと持っていく。
「ご苦労様です。ちょっと貸してください」
坂持はそのまま小鳥遊の持ってきた無線機を受け取り、いかにもイライラしている雰囲気を感じ取れる相手との交信を開始する。
「山羊歯先生ー、今どこにいらっしゃるんですかー?」
「……うるせぇよ、今会場に向かっているところだ!」
坂持の耳に聞こえてきたのは、間違いなく息子の山羊歯礼児(男子19番)が死んで以降荒れだして、それ以降行方がわからなくなっていた山羊歯志ん児(担当官)の声に間違いなかった。
「それはいけませんよー。担当官たるもの、プログラムへの干渉は厳禁です。至急、こちらへ戻ってきてください」
「黙れ! 礼児を殺したあの黒木のガキを殺さねぇと俺の気が収まらないんだよ!」
- 233 :【98】:2005/03/23 03:03
- 坂持がなだめる声も聞く耳持たずだ。そういえばさきほどの防衛用に武器を持ち出す際に、カラシニコフ1丁が一つなくなっていたという報告があった。ということは山羊歯が持ち出したのに間違いないだろう。
礼児を殺したのは、すでに脱落した北上葵(男子3番)であったが、間接的に殺したのは優子に違いない。しかし、どんな理由があろうと担当官の私怨でプログラム中の生徒を殺害しようとするなんてことはあってはならないことだ。
「どうしても、ですか」
「しつこいんだよ、坂持! テメェ、何様のつもりだ!」
山羊歯の態度からしてもはやこれ以上の交渉は無駄である。それはその場にいた二人にも感じ取れた。坂持は無線機を机に置くと、軍服の裏ポケットから何かを取り出す。何かのリモコンのようだが、二人の担当官も知らない代物であった。坂持はそのリモコンに「03」と入力すると、一言こういった。
「うーん、残念ですよ。山羊歯先生」
そして坂持が入力するボタンを押した瞬間、無線機から何かが弾ける音が響き渡った。それこそ、何かが炸裂する音だった。そして山羊歯が倒れただろう音が聞こえてくる。
「ご………、は……、な、に……、おこっ……」
それが山羊歯の最後の断末魔だった。それ以降、その無線機からは何も聞こえることはなかった。代わりに坂持のリモコンからピーーという音が鳴って、リモコンの画面には「ターゲット破壊完了」の文字が映っていた。
「何を…、したんですか、坂持先生!」
折本はあまりの突然の出来事に声もあげることができない。小鳥遊は混乱した頭を必死に落ち着けようと事を起こした坂持を問い詰める。
「何って、飼い主に噛み付いたネコを始末するのが管理者たるイヌの役目でしょう」
- 234 :【98】:2005/03/23 03:04
- おそらく山羊歯を殺したであろうリモコンを持って、坂持はゆっくりと二人の方向へ顔を向ける。そこにはさきほどにはなかった狂気が宿った瞳をしている。
「あなた方、もしかして自分がオリジナルだと思っていたんじゃないでしょうね? まー、気がつかないのもムリはないでしょうけれども。実際、死んだ記憶がないあなた方はそれに気づくことすら、ない」
何を言っている、何を知っているのだ、そんな疑問が二人を支配する。意味深な言葉を吐く坂持の言動とその雰囲気に、二人はもはや正気を保つことと現状を理解しようとするのに精一杯だった。
その中、坂持は他の担当官が知らなかった「真実」を話し出す。
「私の任務はね、プログラムの担当だけではなく、あなた方クローン担当官やクローン兵士の管理も任されているんですよ。『エキシビジョン・マッチ総監督官』というのが私の本当の役職です。もし管理者側の人間がプログラムに反抗的な態度を取ったりすれば、さっきの山羊歯先生のように体内に仕込んだ小型爆弾を爆発させて、始末する」
クローンという言葉に二人は驚愕してしまった。エキシビジョン・マッチとはプログラムで優秀な成績を収めた生徒をクローンとして甦らせてさらなる戦闘実験を行わせる特別プログラムだ。しかしそれを監督する担当官・兵士ですらクローンだということは二人とも全く知らない事実だった。いや、そもそも自分たちは「オリジナル」だと信じていたのだ。
「私たちが、クローンですって……?」
「じゃあ、私のオリジナルは今もどこかで生きている、と……?」
「そういうことです、折本先生。まぁ、中には死んでいる先生もいるかもしれませんけれど、私にとってはどうでもいいことです。ちなみに、この会場も東京都にある都市を模倣されて建造されたエキシビジョン・マッチ専用の戦闘実験都市だっていうのもご存知ないでしょう?」
創造された「プログラム参加者」。創造された「プログラム担当官」。創造された「プログラム兵士」。創造された「プログラム会場」。このプログラムはすべて、大東亜共和国に「創造された」モノ。それはある事実を物語っている。
「つまり、『ここ』にあるものすべては『存在しないモノ』の集まりのわけですよ」
- 235 :【98】:2005/03/23 03:06
- 坂持はそれを断言する。二人は知られざるプログラムの真実に触れて、そのショックから立ち直ろうと必死だった。生徒には「死んだ記憶」はあるが、担当官たちには「死んだ記憶」が一切ないのだ。それなのに、「自分たちはクローンだ」といわれたら混乱するのは必死だ。
「なんという……、ことだ」
「……坂持先生、あなたはすべてを知ってなお…」
小鳥遊がそう言いかけた瞬間、坂持は笑い始める。まるで二人を滑稽なピエロような目で見るように嘲笑したのだ。
「ハハハハハハハ、政府に忠を尽くしている、と? オリジナルが存在しない私にとっては自分がクローンであることなんて、どうでもいいことなんですよ」
そしてリモコンのスイッチを操作し始める。二人は何のことやら一瞬、思考がついていかなかったが、山羊歯の姿を浮かべてハッとする。しかしすでに時遅しだった。
「そしてあなた方もそれを考える必要なんて、ない」
二人が拳銃を抜くより早く、坂持はリモコンの入力キーを押す。そしてさきほどの山羊歯の無線機と同類の爆発音が鳴り響く。二人の腹部は水風船が派手に割れるように、血を派手に撒き散らし、臓器と肉の塊が周囲に飛び散っていった。
力なく崩れ落ちていく二人を坂持は上機嫌な表情で見下ろす。
「プログラムも終盤に差し掛かって、そんなに人手もいらなかったのでちょうどよかったですよー。どの道、存在しないものは消えたって、存在したことすら認識されないのですよ。安っぽい、生命でしょう」
「さ、か…、も、……ち」
「狂っ……、ます……よ……、あ……なた……は…」
かろうじて生きている二人を見た坂持は、ホルスターからトカレフを抜き、二人の脳天に一発ずつ鉛球をプレゼントする。二人の身体はビクリッと強く反応し、少しの痙攣の後、動かぬ肉塊と化した。
「遅かれ早かれ、我々は死ぬんですよ。存在が許されないモノが帰る場所はただ一つ、『無』だけです」
そうやって二人の死体を見る目は、今戦っているプログラム参加者と同類に見るような目だった。そして綺麗な感情を一切含んでいない、人間が考えうるすべての負の感情を満載したヘドロのような瞳。坂持はそんな瞳を浮かべながら、机に座りモニターを眺める。
映っているのは生存者の旗山・元永・黒木・桃生。そして反乱者であろう、桐山・相馬・神宮寺。そのモニターごしに映る顔を見ながら、坂持は桐山の顔を見ながらこういい捨てた。
「桐山ァー、お前がいくら足掻こうと、結末だけは決まっているんだよ」
【残り4人】
- 236 :【99】:2005/10/09 21:18
- 今でも私の目の奥に―― いや脳裏に焼きついて離れない光景がある。
奪われる側から、奪う側へ―― それだけを思い、殺して殺して殺し尽くした沖ノ島。
この島で奪うためにやれることはやり尽くした。不意打ち、騙まし討ち、裏切り、自らの身体を使うことも厭わず、あらゆる非道を行って生き抜いてきた。
そのフィナーレが近づいたと確信した瞬間、無数の熱と痛みが全身に襲い掛かる。
眼下には、殺せた私を見逃した底なしのお人好しの杉村弘樹の骸。そして私が殺した琴弾加代子が仲良く横たわっている。
じゃあ、誰が、私に、この痛みを、与えたと言うの?
私の身体に無数の弾痕が刻まれていることに気づくのに、そう時間は掛からなかった。そして、それを刻み込んだ相手を確認することはすぐにできた。
オールバックの髪型、端正な顔立ち、あらゆる感情も宿していない瞳。そして右手に硝煙の上がったイングラムM10を持ち、悠然とこちらを見下ろすその生徒。
奪う側だった私。だがそこで一瞬でも考えてしまった。この人は私からすべてを奪う。
私のすべてを奪い、そして何もない世界へとうち捨てていく存在――死神。
死神の名前は、桐山和雄。私を、再び奪われる側へと連れ戻す、そんな存在。
私はその後、何かを叫んだ? 何をしたの? それは覚えていない。
だが桐山のイングラムのマズルフラッシュだけが記憶に刻まれている。その光の私の視界は飲み込まれ、後はただ漆黒の闇だけがすべてを支配尽くした。
次に私の目に光が戻ったのは、この殺戮者たちの宴の開始前だった。
今も残る、自分が『殺されていく』記憶。擬似でも、夢想でも、仮死でもない。自分自身が死んだという事実を物語る情報が相馬光子(女子9番)の中にはある。
それだけでも摩訶不思議なことには変わりはない。自分自身が死ぬ瞬間が脳に記憶されているなど、どんな生物でも不可能なことだ。生きるものの生命が一つである限り、そのようなことはできるはずもない。
だが生きている。光子は今、こうして生きている。それは顕在した事実なのだ。
- 237 :【99】:2005/10/09 21:22
- そして光子にとって、もう一つの不可解な出来事がある。今、光子は車に乗っている。正確に言うと、HONBAのオデッセロUというワゴン型の自動車の前助手席に乗り込んでいる。
プログラム中なのに、という疑問は棄ててしまおう。なぜならすでに光子の首に、プログラムの象徴ともいえる小型爆弾付きの首輪はもうない。すでに強制的な殺し合いというルールに縛られない、法の外の存在になっているのだ。
だがこのオデッセロには光子だけが乗っているわけでもない。光子はチラッとバックミラーに目線を合わす。後ろの後部座席には一人の男子生徒が座っている。パッと見でもの優しそうでとてもこの選ばれた殺戮者の一員とは思えないほどで、どちらかと言えば記憶に残る杉村弘樹を想像させるお人好しタイプではないかと想像できる。
名前は神宮寺馨(男子10番)と聞いた。同じ車に乗っている彼は光子にとって敵ではない。だが味方かと言えば……、どうだが疑問だった。どう表現していいかわからない存在だ。まだ会って数時間も経っていないのだから仕方ないと言える。そして彼も光子と同じく、プログラムに縛る首輪は着けられていない。
しかし、光子にとっては後部の馨のことはどうでもいいことである。今まで知らなかったのだから、それ相応の警戒をしていればいい。問題はその隣のオデッセロの運転席でハンドルを握って車を操作している人間である。
ショートヘアになった髪を撫でながら、チラリと横目でその運転席を見る。オールバックにかき上げられた髪、美しい女性に見間違えるほどの整いすぎたルックス。そして驚くほど無表情で、特徴的な無感情な瞳。
あの時の記憶――相馬光子を『一度』殺した死神・桐山和雄(男子5番)が、今ここにいる。自らの隣で悠々とオデッセロを操縦しているのだ。よくよく考えれば、中学生がこんな大型の自動車を運転できること自体おかしいのだが、この際そのドライビングテクニックには触れないではいた。専業運転手も顔負けの運転技術に文句をつける気もないし、それよりも気になることもあった。
第一に『一度』光子を殺した桐山が同じ車の座席に座っていることだ。以前は躊躇も容赦もなく全身蜂の巣にされた。無慈悲に何かをする間もなく惨殺された記憶がはっきりとある。なのに、残虐非道のはずの死神は今度は何もしない。むしろ味方として振舞っている。その沖ノ島の桐山とは違う『感覚』に光子は戸惑っている。
- 238 :【99】:2005/10/09 21:23
- 第二にその桐山に光子が助けられたということだ。和田竜太(男子21番)との死闘の後、桐山が現れた時に光子は己の生命がここまでだと達観した。それは以前に一度殺された時の記憶と重なることだった。眼下に二つの屍骸、目の前には死神。
ただその時と違ったのは桐山が手に持ったイングラムの引き金を引かずに、素早く光子に接近して当身で気絶させたことだった。
それから少し時間が経った後で、光子は意識を取り戻した。場所は死闘を繰り広げた川辺付近ではなく、木々が覆い茂った場所。目が覚めた時にはすでに首輪は取り外されており、光子のすぐ傍の地面に開錠されたまま放置されている。そこにいたのが、桐山と神宮寺だった。初めは光子ももちろん警戒した。だが桐山は意に介さず、ただ静かに光子を見つめているだけだった。そんな桐山の代わりに神宮寺が今の状況を説明してくれた。
二人はプログラムに乗っていないこと。首輪の解除方法を見つけて、すでに政府への反撃を試みようとしていること。そしてそのための仲間を募っていること。それらを聞いても、光子は半信半疑だった。
第三の疑問がいかにも正義感丸出しの神宮寺に桐山が脱出に手を貸していることだ。桐山和雄の性能は同じクラスメイトだった光子がよく知っている。おおよそ中学生離れ、いや人間離れした能力を誇る桐山ならこの修羅が集うエキシビジョン・マッチでも見事に塵殺することは十分可能だ。いや、そうした方が遥かに楽なはずだ。それに不良グループのボスである桐山に正義感なんてものが存在するはずもない。だからこんなことをして何のメリットもないはずだ。
その3つの疑問。光子の中で浮かんで消えることがないものだったが、事実として首輪は解除されている。それはこれで光子たち3人が殺しあうことは何一つメリットがないことになる。すでに首輪を外した時点で、光子は『死んでいる』状態だし、今更政府に申し出た所で『反逆者』として始末されるのがオチだ。
つまり光子が生きてここから出るためには、桐山和雄の驚異的な力は必要となってくる。プログラムを、少なくともプログラム本部を潰さない限り、光子がここから生きて出ることはできない。最初から選択肢などない。もう光子は桐山・神宮寺の計画に乗るしかないのだ。
こうして光子はこのエキシビジョン・マッチを潰すために、プログラム本部へと向かっている。ほぼ強制的な了承とはいえ、そこまで悪い状況ではない。実際、プログラムにおいて仲間とは信用できないものだ。ルール上、一人しか生き残れないのだから、いずれ殺しあうことは目に見えている。だから裏切りを常に警戒しなくてはならない。
- 239 :【99】:2005/10/09 21:25
- だがこの首輪というプログラムの強制参加を促す小道具はない。ただ一つの生きるために行動する仲間なら、今更裏切る心配もない。なぜなら、その目標を達成する他に彼らが生き残ることができないからだ。
そして3人を乗せたオデッセロはついにプログラム会場の端にまで到達した。目の前にあるのは、フィールドとして区切るために使用されたバリケードと有刺鉄線が道を阻んでいる形で佇んでいる。
「……ここを越えたら、もう後戻りはできないわね」
光子はそう呟く。参加者を殺していた方が楽だったかもしれない。これから挑むのは敵の数もわからないこの国の軍隊・専守防衛軍に所属する兵士なのだ。どう考えても勝ち目を薄い戦いを挑んでいるのかもしれない。バックミラーで後部座席を見ると、神宮時がいかにも不安な表情を浮かべている。
当然で健全な反応だ。普通の中学生はそう思うのが普通なのだ。
だが運転席に座っている男だけは違った。何の表情も浮かべずに、車を降りる姿を光子と神宮寺はただ見送るしかなかった。ニトログリセリンを満載したデイバックを抱え、何も変わらない足取りでバリケードに近づいて、ゆっくりデイバックを地面に置く。
そしてそのままバリケードより少し距離の離れた車の傍にまで戻ってくると、懐に収めてあったH&K USPを抜く。兵士・田原から奪った大型銃を片手でゆっくりと水平に持ち上げてデイバックに標準をあわせる。
そして一発。一回だけトリガーを引くだけでド真ん中を貫く。そして衝撃に弱いニトログリセリンは一気に反応を起こし、辺りに爆音を轟かしながらバリケードを粉々に吹き飛ばす大爆発を起こす。
光子と神宮寺は車内に居たので爆風や爆音の反響は少なかったのだが、それでも一瞬の轟きに軽い悲鳴を出し、目を伏せてしまう。
だが光子が目を開けて、バリケードが吹き飛んだ光景を目にした時に、桐山をふと見るとただただ驚くしかなかった。桐山は何事もなかったかのように、平然とその場に立っている。当たり前のことを、当たり前のようにやった。そんな顔をしている。
光子は改めて心底、ゾッとした。何事にも動じないというのは何と恐ろしいことなのだろうか。桐山和雄は何事にも何も感じず、善悪に全く頓着のない。これほどの悪魔がこの世にどれほどいるだろうか。
敵でいることであることよりかは遥かにマシでも、傍にいてこれほど恐ろしいと思うこともないだろう。光子は心許すことができるはずもない桐山に畏怖を感じながらも、これから始まる戦争にある種の期待を寄せていた。
この悪魔なら、巨大な悪鬼を倒しつくすことができるかもしれない。
桐山はそのまま表情も変えずにオデッセロに乗り込む。そして抑揚もない声で二人にこう言った。
「さあ、行こうか。作戦開始だ」
3人の反逆者を乗せたオデッセロはついにプログラム会場を飛び出し、プログラム本部へと迫ろうとしていた。
【残り4人】
- 240 :和田竜太:2006/04/12 23:42
- もうすこしで完結なのに〜〜
- 241 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 242 :名無しさん@プログラム:2008/01/21(月) 01:24:28
- 読んでしまった・・・・
気になる誰か続け
- 243 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 244 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 245 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 246 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 247 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
- 248 :ぱらららら:ぱらららら
- ぱらららら
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